米国CDCの予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices: ACIP)は、2024年の推奨予防接種スケジュールを例年より早く公表した。
予防接種スケジュールを早期に公表した理由
公表を早めた背景には、新型コロナワクチンの接種率の低さがある。米国において2023-2024年製の同ワクチン接種率は、成人が7%、小児・青少年は2%であった。ある調査では、『子どもに新型コロナワクチンの接種を受けさせるか』の質問に対して、両親の回答は「必ず受けさせる」が約25%、「たぶん受けさせる」が約30%、「たぶん、あるいは絶対に受けさせない」は約38%との接種意向が確認されていた。
ACIPは、供給の問題、予防接種実施者にワクチン保管の高いコストがかかること、コミュニケーション不足や小児は重症化しないという誤った認識があることなども、接種率の低さとなっている可能性を指摘している。
今回、2023年11月に公開された予防接種スケジュールは、より対応力のある内容にするため、随時、改訂される予定である1)。
1. 小児・青少年(0-18歳)の予防接種スケジュール
小児・青少年(0-18歳)の推奨予防接種スケジュール(表1)2)と、主な改訂点(全般・個別)を示す3)。
■ワクチン全般
・新たに、20価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV20)*1、Mpoxワクチン*2、RSウイルス(モノクローナル抗体*3、ワクチン)、5価髄膜炎菌(A, B, C, W, Y群)ワクチン*4を追加した。
・2価mRNA新型コロナワクチン、DT、13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)、4価髄膜炎菌ワクチンのうち1製品を削除した。
■個別のワクチン
・新型コロナワクチン: 2023-2024年製ワクチンの使用ガイダンスを記載した。
・DTaPワクチン: 初回、および追加接種について明記した。
・HPVワクチン: ルーチン接種について、シリーズ接種完了した者には、追加接種を推奨しないことを明記した。
・インフルエンザワクチン: 2023-2024シーズンでの推奨内容を反映させた。卵アレルギーの既往歴を有する者への接種の項を削除し、卵アレルギーの既往歴を有する者は重症度にかかわらず、年齢と健康状態に適したいずれのインフルエンザワクチンも接種可能であること、また、安全性に関して通常以上の追加的配慮は要らないことを明記した。
・MMRVワクチン*5: ルーチン接種、キャッチアップ接種などで使用は可能であるが、接種間隔は最低3か月あけることを明記した。
・髄膜炎菌ワクチン: 4価ワクチンのうち1製品は削除し、新しく承認された5価ワクチンの使用推奨に関する情報を記載した。
・Mpoxワクチン: 性感染のリスク因子を有する18歳への使用ガイダンスを記載した。
・肺炎球菌ワクチン: PCV13を削除し、PCV15、PCV20*6、PPSV23の使用を新たに推奨した。
・ポリオワクチン: キャッチアップ接種の項を改訂し、ポリオウイルス曝露のリスクが高く、初回シリーズを接種完了した18歳への推奨を追記した。
・RSウイルスモノクローナル抗体: 乳幼児への使用の詳細を記載した。また、RSウイルス感染症流行の季節性を考慮した投与時期の情報も記載した。
・Tdapワクチン*7: 11-12歳で推奨される接種は、青少年期のTdapの追加接種であることを明記した3)。
*1: PCV20、*2: Mpoxワクチン、*3: RSウイルス(モノクローナル抗体)、*4: 5価髄膜炎菌(A, B, C, W, Y群)ワクチン、*5: MMRVワクチン、*6: PCV20、*7: Tdapワクチンは、いずれも本邦未承認のワクチンです。
表1 小児・青少年(0-18歳)の予防接種スケジュール―米国、2024年
(表1の注釈です。抜粋)
注1) 母親の妊娠中のRSワクチン接種状況により、モノクローナル抗体投与の可否は異なる。また、乳児の出生時期がRSVの流行シーズンであるか否か(10-3月、4-9月)で投与時期が異なる。
注2) 生後8-19か月で、医療サポートを必要とする慢性肺疾患を有する早産児や、アメリカインディアンやアラスカ原住民の児などに接種を推奨。
注3) 米国のロタウイルスワクチンは2製品あり、それぞれ接種回数が異なる。
注4) 米国のHibワクチンは5製品あり、それぞれ接種回数、および3回目以降の接種間隔が異なる。
注5) 18歳でポリオワクチン未接種または接種未完了の者は、残りの回数を接種し、初回シリーズの3回接種を完了させる。
注6) 米国の2023-2024年製新型コロナワクチンは3製品あり、年齢層・接種歴により、それぞれ接種回数や使用可能なワクチンが異なる。
注7) 生後6-11か月児が海外渡航する場合、出発前に1回を接種し、生後12-15か月時(ハイリスク地域では生後12か月時)とその4週後すみやかに1回ずつ接種する。
注8) 中~高度の流行地域へ海外渡航する場合、出発前に1回接種、生後12-23か月時に最低6か月の間隔をあけて2回を接種する。
注9) 最低6か月の間隔をあけて2回を接種。未接種の乳幼児が中~高度の流行地域へ海外渡航する場合、渡航の可能性が生じたらすぐに1回を接種する。
注10) 推奨年齢は11-12歳であるが、9歳から接種開始可能。接種開始年齢により、接種回数が異なる。
注11) 無脾症、HIV感染、補体欠損症、補体阻害薬を使用中の児、および流行地域へ海外渡航する児に接種を推奨。米国の4価髄膜炎菌ワクチンには2製品あり、それぞれ適応年齢や接種回数が異なる。10歳以上は、B群を含む5価髄膜炎菌ワクチンの選択も可能。
注12) 無脾症(鎌状赤血球病を含む)、補体欠損症、補体阻害薬を使用中の青少年。米国のB群髄膜炎菌ワクチンは2製品あり、それぞれ接種間隔や接種回数が異なる。10歳以上は、A, C, W, Y群を含む5価髄膜炎菌ワクチンの選択も可能。
注13) 9月~1月の間に妊娠32週0日~36週6日である妊婦に、1回の接種を推奨(過去のRSV感染歴は問わない)。
注14) デング熱の流行地域に居住する9-16歳、かつ、過去のデング熱感染を検査診断された者。流行地域を旅行または訪問する小児には接種するべきではない。
2. 成人の予防接種スケジュール
次に、成人(19歳以上)の推奨予防接種スケジュール(表2)4)と、主な改訂点(全般・個別)を示す3)。
■ワクチン全般
・新たに、Mpoxワクチン*2、RSウイルスワクチン、5価髄膜炎菌(A, B, C, W, Y群)ワクチン*4を追加した。
・2価mRNA新型コロナワクチン、4価髄膜炎菌・ワクチンのうち1製品は、削除した。
■個別のワクチン
・新型コロナワクチン: 2023-2024年製ワクチンの使用ガイダンスを記載した。
・A型肝炎ワクチン: 接種未完了で、接種を希望するすべての者は接種可能であることを明記した。
・B型肝炎ワクチン: 60歳以上の者はリスクに応じて接種が推奨されることを記載した。60歳以上で糖尿病を有する者への接種推奨の臨床判断に関する情報を追記した。
・HPVワクチン: シリーズ接種完了した者には、追加接種を推奨しないことを明記した。
・インフルエンザワクチン: 小児・青少年(0-18歳)の改訂と同様。
・髄膜炎菌ワクチン: 4価ワクチンのうち1製品を削除し、新しく承認された5価ワクチン使用の推奨情報を記載した。B群髄膜炎菌ワクチンが接種推奨される場合の臨床判断についても補足した。
・Mpoxワクチン: 性感染のリスクを有する成人への使用ガイダンスを記載した。
・ポリオワクチン: 接種歴不明、未接種、接種未完了の成人は、ルーチン接種として不活化ポリオワクチンの初回シリーズ(3回接種)を完了させることを追記した。初回シリーズの接種が完了している成人もリスクに応じて追加接種が可能であることを追記した。
・RSウイルスワクチン: 妊婦、および60歳以上への使用について記載した。RSウイルス感染症流行の季節性を考慮した接種時期の情報も記載した。
・Tdapワクチン*7: 10歳時の接種は、11-12歳時に推奨されるルーチン接種としてカウントできることを明記した3)。
*2: Mpoxワクチン、*4: 5価髄膜炎菌(A, B, C, W, Y群)ワクチン、*7: Tdapワクチンは、いずれも本邦未承認のワクチンです。
表2 成人(19歳以上)の予防接種スケジュール―米国、2024年
(表2の注釈です。抜粋)
注1) 接種歴により接種回数が異なる。また、米国の2023-2024年製新型コロナワクチンは3製品あり、それぞれ接種回数が異なる。
注2) 9月~1月の間に妊娠32週0日~36週6日である妊婦に、1回の接種を推奨(過去のRSV感染歴は問わない)。
注3) 妊婦: 妊娠27-36週の間の早期に、Tdapを1回接種することが望ましい。
創傷管理:破傷風含有ワクチン3回以上の接種歴がある者が受傷した場合、汚染されていない小さな創傷であれば最終接種から10年以上経過していれば、TdapまたはTdを接種する。それ以外の創傷では、最終接種から5年以上経過していれば、TdapまたはTdを接種する。Tdap未接種や接種歴不明の者には、Tdapを推奨。
注4) 1957年以前生まれの医療従事者には、免疫のエビデンスを求める(MMRワクチンの接種記録、抗体検査結果。検査結果のない臨床診断はエビデンスに含めない)。
注5) 免疫不全状態の者(HIV陽性者[CD4数は問わない]感染者を含む。): 組換え帯状疱疹ワクチンを2-6か月(最低でも4週間)あけて2回接種する。接種間隔が短すぎた場合は再接種する。
注6) 肺炎球菌ワクチンの接種歴、接種した肺炎球菌ワクチンの種類により、使用可能なワクチンや接種方法が異なる。
注7) 肺炎球菌ワクチンの選択や接種時期などを判断するためのガイダンスは、CDCの関連サイトを参照(www.cdc.gov/vaccines/vpd/pneumo/hcp/pneumoapp.html)。
注8) 無脾症、HIV感染、補体欠損症、補体阻害剤の投与を受けている者: 2回を接種する。
流行地域へ海外渡航する者、髄膜炎菌に日常的に曝露される微生物学者、寮生活の大学1年生(16歳以降でワクチン接種を受けていない場合)、または軍への入隊者: 1回接種する。
米国の4価髄膜炎菌ワクチンには2製品あり、対象により接種回数が異なる。5価髄膜炎菌ワクチンの選択も可能。
注9) 無脾症、補体欠損症、補体阻害剤の投与を受けている者、髄膜炎菌に日常的に曝露される微生物学者。
米国のB群髄膜炎菌ワクチンには2製品あり、製品により接種回数が異なる。5価髄膜炎菌ワクチンの選択も可能。
米国の予防接種スケジュールの詳細は、下記URLを参照されたい。
本稿に記載の内容は、米国の推奨事項です。本邦未承認のワクチンがあること、また、国内の予防接種法に基づくスケジュールや国内で承認されているワクチンの用法・用量とは異なる点がありますので、十分ご留意ください。
文献
- American Academy of Pediatrics: AAP News. CDC provides clarity on COVID vaccines for children, will publish 2024 immunization schedules early. October 26, 2023.
- CDC: Recommended Child and Adolescent Immunization Schedule for ages 18 years or younger, United States, 2024.
- CDC: Immunization Schedules. Schedule Changes & Guidance.
- CDC: Recommended Immunization Adult Immunization Schedule for ages 19 years or older, United States, 2024.