免疫不全状態にある患者における感染症対策は非常に重要であるが、予防接種に関してはさまざまな配慮が必要である。関連ガイドラインの改訂版が発行された。
「免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン 2024」は約10年ぶりの改訂
免疫不全状態にある患者は、感染症を発症し、重症化するリスクが高いことが広く認知されている1)ものの、予防接種に関するエビデンスは、健常者に比べて限られている。そうしたなかでも、たとえば生ワクチンに関する考え方などが世界的に変わりつつある1)。また、小児慢性疾患の長期予後が改善されて、成人に移行することも多くなった。WHOは、予防接種の戦略計画である「Immunization Agenda 2030」のなかで、『Life course immunization(生涯を通じて、予防接種で健康寿命を延伸させる)』概念を提唱している。小児期発症の疾患を抱えて免疫不全状態にある患者に対し、安全な予防接種を行うことで、ワクチンで予防可能な疾患(VPD)への感染予防、重症化予防が求められるようになっている2)。
こうした背景から、対象とする疾患や年齢層を拡大し、初版「小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン」(2014年)から名称を変更して、約10年ぶりとなる改訂版「免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024」が、2024年4月に発行された。
免疫不全の種類は多種多様で、背景疾患・治療薬・経過なども患者により千差万別である。多様な背景を有する免疫不全状態にある患者に対する予防接種は、健常者の場合とは異なり、有効性や安全性について配慮すべき点が非常に多いが、新しいガイドラインでは、ある程度体系別に分類されている。主な項目として、ガイドラインサマリー(①推奨の強さとエビデンスの強さの考え方、②CQ*と推奨文、推奨とエビデンスの強さ)、総論(免疫不全者の予防接種全般)、各論などがあり、分野ごとにCQとBQ†が立てられている(表1)2)。
本ガイドラインは、日本小児感染症学会が監修し、関連8学会**の合同で作成された。臓器移植・小児外科、炎症性腸疾患・肝臓病、血液・腫瘍、腎疾患、リウマチ疾患、免疫不全症や無脾症患者を診る医師のほか、ワクチン行政関係者など、広く保健医療関係者を読者対象としている2)。
*CQ: clinical question
†BQ: background question
**関連8学会: 日本移植学会、日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児外科学会、日本小児血液・がん学会、日本小児循環器学会、日本小児腎臓病学会、日本小児リウマチ学会、日本免疫不全・自己炎症学会
表1 目次の主な項目: 免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024
文献2)より作表
「造血細胞移植ガイドライン 予防接種(第4版)」が発行
臓器移植(造血幹細胞移植および実質臓器移植)において、合併症対策・感染症対策は非常に重要であり、予防接種には大きな意義がある3)。日本造血・免疫細胞療法学会は、2023年12月に、「造血細胞移植ガイドライン 予防接種」の改訂版を発行した。2008年の初版、2014年の第2版、2018年の第3版に続く第4版となる。国内における感染症の発生動向が変化しており、特にCOVID-19パンデミックが移植医療・細胞医療にも大きな影響を及ぼしていることや、新型コロナワクチンなどの新しいワクチンが利用可能となったことを受け、改訂が行われた。第4版では新型コロナワクチンが追加され、感染症の流行状況によっては、不活化ワクチンの接種開始時期を早めることなども記載されている。冒頭の要旨(造血細胞移植後のワクチン接種スケジュール例)では、1) 開始基準、2) 接種順序が簡潔にまとめられており、エクセルで作成したワクチン接種スケジュールのテンプレートは学会ホームページからダウンロードでき、接種者によるカスタマイズも可能となっている。その他、目次の主な項目は、表2のようになっている4)。
表2 目次の主な項目: 造血細胞移植ガイドライン 予防接種(第4版)
文献4)より作表
医療行為により免疫を消失した者への再接種費用助成制度
骨髄移植などの医療行為によって免疫を消失した者へのワクチンの再接種は、現行の予防接種法では定期接種の対象とはならず、高額の予防接種費用の負担が課題となっている。これに対して、各自治体が助成事業を行っており、支援状況を調査した結果(2018年7月1日時点)によると、何らかの支援を行っている自治体は全体の5.1%(89/1,741自治体)で(図1)、費用を全額負担している自治体はそのうちの30.3%(27/89自治体)であった(図2)。また、助成事業を行っていない自治体でも、そのうちの約20%が実施を予定もしくは検討している5)。助成事業を行う自治体は増加しつつあり、詳細は各自治体の情報を参照されたい3)。
図1 骨髄移植等の医療行為により免疫を消失した者に対する再接種に対する助成事業の有無(N=1,741)
文献5)より
図2. (助成事業有りの場合)助成額(N=89)
文献5)より
文献
- 宮入 烈: 臨床とウイルス. 52(1): 22-25, 2024.
- 日本小児感染症学会 監修: 免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024. 2024年4月.
- 日本ワクチン産業協会: 予防接種に関するQ&A集2023.
- 日本造血・免疫細胞療法学会: 造血細胞移植ガイドライン 予防接種(第4版). 2023年12月.
- 第37回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会. 資料3-5. 2020年1月27日.